『今やるか、後回しにするか』あなたはこういった自問自答をしたことはないだろうか。特に大学受験は、そういった選択を迫られる代表的な一場面かもしれない。年単位という長期スパンで積み上げる勉強は、成果(合格)までの距離が遠く、モチベーション維持が困難な局面も多い。ここで鍵となるのが『遅延報酬』という考え方である。
遅延報酬(Delayed Gratification)とは、即時の快楽や報酬を犠牲にして、より大きな成果を将来手に入れる選択を行う心理学上の用語である。1960年代に行われた『マシュマロ実験※』では、待てた子どもほど将来的に社会的・学業的に成功する傾向があると示された。これは単なる忍耐力ではなく、報酬の価値を予測し、自己を制御する認知的スキルに支えられると考えられている。
大学受験はこの遅延報酬の代表的な一例と考えられる。高校生活の多くを勉強に費やす受験生は、遊びや部活動の誘惑に打ち克ち、合格という将来の報酬に向けて努力を重ねる。この選択は、本人の価値観だけでなく、家庭や学校環境にも影響されるわけだが、例えば、親が進学を『長期的投資』と捉えている家庭では、子どもの遅延報酬への理解も高まる傾向にあるようだ。
大学受験が全てではないものの、大学受験の結果によっては、特定の企業や職業などに一定の制限がかかり、その制限によって人生設計が大きく変わってしまうのも事実である。まさに『遅延報酬』について、高校生という若者が自分のこれからの人生を想像して、何を選択しどう行動するのかということが試されるのだ。
このような観点からも、大学受験は若者が『時間を越えた努力』の経験を積む貴重な機会となりうる。結果が出るまでの不確実性を耐え抜くことこそが、後の人生の様々な場面――進路選択やキャリア形成――において力になるからだ。
よって、大学受験は単なる「試験」ではなく、「遅延報酬という力を育てる訓練」として捉えても良いのかもしれない。
※マシュマロ実験とは、4歳の子どもに1つのマシュマロを差し出し、「今すぐ目の前のマシュマロを食べても良いが、もし15分待てればもう1つ追加でもらえる」とだけ伝え、子どもの反応を観察する心理学実験のこと。結果は、3分の2の子はマシュマロを食べ、3分の1の子が食べずに待った。18年後の追跡調査で、マシュマロを食べた子よりも、食べなかった子の方が学業成績や健康状態、さらには将来の収入や社会的地位などが高かったことが明らかになった。