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9/17/2021 2:08:00

Case26.不死鳥のごとく

eyecatch
マインド

 東京2020オリンピック・パラリンピックが閉幕した。コロナ禍という世界的な問題の中で開催された国際大会であったが、気がつけばあっという間に閉幕していた。今後自分が生きているうちに日本でオリンピックがあるのか、そのときに同様の世界的な感染症の問題などが無ければ一度生で目にしてみたい。

 先日のニュースで、パラリンピックテニスで金メダルを獲った国枝慎吾選手のインタビュー動画が流れていた。私自身はごくたまにテレビでテニスを見る程度の知識しかないが、クニエダという名前はこれまでに何度か聞いたことがあった。恥ずかしながら「車いすテニスで強いひと」という程度の知識であった。

 国枝選手の公式ホームページを参照すると、小児期から脊髄腫瘍で車いす生活を送り、母の勧めをきっかけに車いすテニスを始めたようだ。グランドスラムシングルス通算28勝、パラリンピックでは2004年アテネ大会の金メダルを皮切りに、2008年北京、2012年ロンドンで金メダル、2016年リオで銅メダル、そして今回2020年東京で金メダルに返り咲いた。テニスに詳しくない自分でもとんでもない戦績だということはわかる。

 そんな国枝選手が東京パラリンピック優勝直後のインタビューで以下のようにコメントしている。

 「一度リオで挫折を味わってる。まさかこうして金メダルをまた首からかけられるのは、北京、ロンドンとは全然違う。それだけテニスの良さも怖さも、身をもって感じてるキャリアがある。勝つむずかしさを年々感じてますし、何度も“自分はできるんだ、俺は最強だ”と言いきかせますけど、心の奥底では疑う自分がいた。その戦いはありました。そこに打ち勝った」

 世界の国枝選手とたかだか自分の話を並列で語るのは全くおこがましい話であるが、この言葉を聞いたときにふと自分の受験時代を思い出した。自分は最強だと思ったことは無いが、先の見えない暗闇の中を走り続ける過程で「自分はできるんだ」と言い聞かせ、一方で「おまえは本当にできるのか?」と自問自答する毎日だった。

 いま国枝選手は37歳である(2021/09/12現在)。2016年リオ大会のときは33歳であり、そのときはダブルスで銅メダルであった(シングルスは準々決勝敗退)。年齢的なハンディキャップや肘の故障を抱え一度はもう終わりかと思われながらも、結果的にこの4年間でさらに進化を遂げ、不死鳥のごとく再度金メダルに返り咲いたのである。リオ大会を振り返ったときに「当時の写真を見るだけでも心がずっしりと重たくなるくらいネガティブなイメージが強い、それくらい苦しかった」とコメントしている。私が想像するにこの4年間は本当に地獄だったと思う。

 私自身は浪人して医学部に合格したが、不合格を通達されたとき私は失意のどん底に落とされた。それは不合格という事実によるものは当然であるが、今後どうしたら良いんだろうかという不安によるものも大きかったように思う。来年は絶対に合格するという保証のない中で自分はやるのか(やれるのか)、やらないのか(やれないのか)、そういった選択をしなければならないこと、これこそが自分だけではなく誰しもが感じる一番の不安要素だと思う。

 年齢などに関係なく、ひとは何かにチャレンジするとき、その目標が大きければ大きいほど「自分は本当にやり遂げられるのだろうか?」と自問自答するときがある。特にゴールに近づけば近づくほど何故かこの自問自答は重くのしかかることがある。ちょうど山頂近くに達すると霧がかかり酸素も薄くて苦しくなるように、目標到達に近くなると急に自分を疑い始め苦しくなることがあるのだ。

 一度登山を始めると全くトラブルなく万事順調に登頂に成功するということはまずない。特に目標の高い山であれば然りである。たいていは大なり小なり想定していなかった問題や、想定していたがその想定以上に問題が出てきてしまうなど様々な困難を乗り越えながら歩き続けることになる。それでも一度決めたゴールに向けて前に進み続けていくならば目標は近づく。途中で失意のどん底に落とされても、不死鳥がごとく立ち上がるならば、それが遅々たるものであっても目標に確実に近づく。自分を信じ抜くことは決して簡単なことではないが、自分を信じ抜き歩き続けることができれば、必ず霧は晴れて山頂から素晴らしい景色を見ることができる。

 国枝選手のインタビューと10年前の自分を振り返って、いまの塾生、受験生に少しでもこころの迷いを払拭する手助けになればうれしい。塾生が全員第一志望の医学部に受かり6年後の医師国家試験を合格し、一緒の医療現場で働くその日を思い描いて、今日はこんな記事を書いてみた。

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