国公立医学部入試倍率の平均は例年約4倍である。この表向きの数値が単純に意味することは「実際の試験会場で、与えられた1つの枠に対して4人の受験生がその枠を奪い合う」ということである。しかし今日はこの数値の「裏の意味」にフォーカスを当ててみたいと思う。
理系学部の中で医学部は最も人気の高い学部である。これは入試倍率と言う数値を見れば一目瞭然である。大学によっては必ずしもそうでないところもあるが、平均的に見た場合、やはり医学部は倍率が非常に高い人気学部である。ここで入試倍率とは、以下のプロセスを経て実際に出願・受験した受験生と定員との比率である。
医学部を志す→紆余曲折があるも諦めずに学習を続ける→実際に出願・試験を受ける
分かりやすく考えるために、倍率4倍の医学部の場合と、倍率2倍の他学部の場合で考えてみる。また、定員はともに100名とし、実際に出願する人の割合を5割と仮定する。この場合、倍率4倍の医学部では、400名が実際に出願し、800名が当該医学部志望であったということであり、一方で、倍率2倍の他学部では、200名が実際に出願し、400名が当該学部志望であったということである。
この800名が志望であった医学部と、一方で400名が志望であった他学部という数字上の絶対値の違いを肌で感じることができるだろうか。今回計算を分かりやすくするために、実際に出願する人の割合を5割としたが、難関大・難関学部になればなるほど多くの受験生は出願することを「躊躇」し、その割合は2割3割となり、この志望した受験生の人数の絶対値はますます大きくなる。
つまり、医学部を志望して実際に出願・受験するということ自体が、まず大きな第1ステップであり、そこから実際に合格するというのはさらに非常に狭き門なのである。実際に医学部に出願・受験する受験生は当然一定の自信があるからそうするわけで、そういった「生き残り」による倍率4倍というのは、熾烈な争いになることは火を見るより明らかである。
このchallengingな挑戦を成功させる最大のポイントは「紆余曲折があるも医学部志望を最後まで貫き通す」という鋼の意志である。多くの人間は安定性を求め、失敗するリスクを嫌う。つまり、挑戦すること自体を本能的に避けようとする。「受かるかどうかわからない医学部よりも確実に受かる他学部にしよう」という気持ちのことである。そういった点で、医学部受験は、本能に逆らう行為、普通からはみ出す行為なのである。この本能に抗う行為を、わずか20歳前後の受験生が挑戦しようとすることがいかに難しいか、これこそが医学部受験最大の肝だと言える。
医学部受験に限らず、受験はフルマラソン的な要素が必要とされ、その途中途中で、途中棄権する受験生も多数存在する。受験とは、そういった中で最初から最後まで自分の意志を貫く姿勢、初志貫徹する姿勢を求められ、高いモチベーションを一年間またはそれ以上の期間持ち続けることが求められる過酷なレースである。前方1mにはライバルが多数いて、後方1mにもライバルが多数いる、そんな状況下で精神と肉体を消耗させるレースなのである。先着100名の枠に自分が入るためには、目の前のライバルを追い抜き、後ろのライバルに追い抜かれないように日進月歩で努力する必要がある。
上記のような過酷な受験レース、とりわけ医学部のような高難度で高倍率な受験レースに挑戦しようとしている受験生へ私からメッセージがある。それは、医学部を目指すという最初に誓った思いに振り返り、その熱い気持ち(passion)を忘れずに一歩ずつでも前に進めば必ずゴールとの距離は小さくなるし、その繰り返しこそがライバルに大きく差をつける最大の武器になる、ということである。合格する受験生は、どんなに苦しい場面でも諦めず毎日机に向かい、小さな一歩を歩み続けた人である。この愚直な小さな一歩を続けられるかどうか、受験とはそれが試されるレースなのである。