北海道の冬は受験生にとっては少し厳しい。
寒さで指はかじかむし、外に出るのも億劫になる。
そんなある日、高校生のY君は吹雪の中を歩いて図書館へ向かった。
家では集中できないからだ。
図書館に着くと、いつも座る席に先客がいた。白髪まじりの小柄なおばあさん。
机いっぱいに広げられたのは、なんと中学レベルの数学の問題集。
「ここ、いつも君が座ってるよね。ごめんねえ」
そう言って席を譲ろうとするおばあさんに、Y君は慌てて首を振った。
「大丈夫です。あの…勉強されてるんですか」
「うん。孫にね、『おばあちゃんも勉強してみたら?』って言われてね。頭は固くなったけど、やってみると楽しいよ」
おばあさんは照れくさそうに笑った。
その日から、二人は図書館でよく顔を合わせるようになった。
おばあさんはゆっくり問題を解き、Y君は黙々と受験勉強を進める。
ときどき、おばあさんが「これ、どうやるんだっけねえ」と聞いてくる。
Y君は説明しながら、自分の理解が深まっていくのを感じた。
そして受験前日。
おばあさんは、いつもの席でY君を待っていた。
「これ、あんたに渡したくてね」
差し出されたのは、小さな折り鶴。
色は淡い水色。北海道の冬空のような色。
「勉強を教えてくれたお礼。あんたが頑張ってる姿を見るとね、私も負けてられないって思えたんだよ。だから、これは私からの“合格祈願”」
Y君は胸が熱くなった。
誰かに応援されるって、こんなに心強いものなのかと知った。
試験当日、Y君はその折り鶴をポケットに入れて会場へ向かった。
緊張で手が震えたとき、折り鶴の角が指先に触れた。
その瞬間、図書館の静けさと、おばあさんの笑顔がよみがえった。
「大丈夫。やれる」そう思えた。
結果は、合格。
春になり、図書館に報告に行くと、おばあさんは目を細めて言った。
「ほらね、あんたならできると思ってたよ」
その言葉は、どんな合格通知よりも温かかった。