すぐ役に立つものはすぐに役に立たなくなる。これは私自身の医学部入学式の際に、某診療科の教授が述べていた一文である。この言葉の真意がすぐに読み取れた受験生、読者は、もしかしたら一つの物事をある程度極めた経験がある人ではないかと思う。
一般に、多くの人はすぐ役に立ちそうな、ある種の「特効薬」的な安直物に飛びつく傾向がある。巷でよく見かける「たったこれだけで一週間マイナス5kg減量」「これさえわかればTOEIC800点」という類のやつである。結論から述べると、物事を真に理解するためには「〇〇だけでOK!」という類のものは全て嘘と考えて差し支えない。表面的な薄い理解で良いという人は、上記のような類の情報で十分であるかもしれないが、自分の深い理解はもちろんのこと、他人にも教えられるほど十二分に理解する必要がある場合、決して安直な方法に頼ってはいけない。
一本の頑丈な、実り豊かな木を想像してほしい。こういった木が完成する過程を考えてほしい。しっかりとした大地をベースに深くまで根を伸ばし、太くてどっしりとした幹を構え、枝葉を伸ばし果実を実らせる。安直物はこの過程をすべて吹っ飛ばし、いきなり美味しい果実ができますよ、と言っているのに等しいのである。冷静に考えればそんなことは到底不可能であるが、「そうでありたい」という欲求や「そうであってほしい」という現実逃避的思考から、安直な「嘘」に飲み込まれてしまう人が多々いる。
これは大学受験でも当然成り立つ。「この問題だけやれば共通テストで9割」とか、「この解き方さえ知っていれば全部に応用が利く」とか、そういう短絡的な学習法を唱える人が増えてきてしまっているように思う。いわゆる小手先のテクニックだけで十分に合格できてしまう大学があるのも事実だが(非常に嘆かわしい事実であるが、、、)、少なくとも難関大や医学部といった高難度の受験先を考えている受験生は、安直な学習法はすぐにやめた方が良い。そのような学習法ははっきり言って時間とお金の無駄である。
難関大や医学部を目指す受験生は、教科書や教科書傍用教材などの基礎・基本的な問題(=しっかりとした大地)をベースに、典型的な問題・標準問題(=太くてどっしりとした幹)で合格最低ラインまで持っていき、最後にやや難の問題や若干非典型的ではあるが習得すべき解法のある問題(=枝葉)で盤石な布陣を築くこと(=果実の実り)を念頭において学習してほしい。しっかりとした大地がない状態で、いきなり太い幹を目指したり、ましてや枝葉を作ろうとしてはいけない。物事には順序があり、その順序を間違えると上手くいくものも上手くいかなくなるのである。
その際に非常に重要なポイントの一つとして、これまでも何度も指摘しているが「自分の認識と客観的な認識が乖離している」という事実を理解・確認し、今の自分の真の立ち位置を正確に把握する必要がある。つまり、My偏差値は70、80でも実際の偏差値は50ならば、自分としては枝葉の部分にチャレンジすべきと誤って認識してしまうからである。これは受験に精通した信頼できる人物にその正確な立ち位置を判断してもらい、その人のレベルに真にあった作戦を一緒に考える必要がある。そうでないと裸の王様状態で闇雲に走り回るだけになるからである。
概して、受験生に限らず人とは「すぐ役に立つもの」に走り、結果的に「全く役に立たないもの」になってしまいがちである。かく言う私も今まで同様の失敗を何回、何十回、何百回繰り返してきたかわからない。しかしそうした中で、「すぐ役に立つものはすぐ役に立たなくなる」ということを実際に体感し、少なくとも自分が勝負しようとしている領域では安直物には頼らなくなった。
難関大や医学部を目指している受験生は、目先の見掛け倒しの学習法に惑わされることなく、真の学力を養成するために「一本の木」作戦で計画的に学習を進めてほしいと思う。その学習方針がわからない・アドバイスがほしいのであれば、北大・医大進学塾の塾生に限らず誰でも相談してほしいと思う。一人でも多くの受験生が真の学力を身に付け、来春に第一志望に受かってほしいと強く思うからである。