冬の夜明け前。
高校三年生のK君は、まだ暗い部屋で机に向かっていました。
模試の判定はずっとE。
どれだけ勉強しても結果がついてこない日々に、心は何度も折れかけていました。
その朝も、参考書を開いたまま手が止まり、ため息がこぼれました。
「もう無理なのかな…」
そのとき、部屋のドアがそっと開きました。
母が温かいココアを持って入ってきたのです。
「休憩しなさいって言いに来たんじゃないよ」
母は笑いながら、机の横にココアを置きました。
「K、知ってる?夜明け前がいちばん暗いっていうけどね…あれ、本当に“暗いからこそ、光が近い”って意味なんだって」
K君は黙って聞いていました。
「あなたが今感じてる苦しさは、光が近い証拠なんだよ。だって、あきらめてる人はこんな時間に机に向かわないもの」
その言葉は、胸の奥に静かに落ちていきました。
誰にも見えない努力を、ちゃんと見てくれている人がいる。
それだけで、心の中に小さな火が灯ったようでした。
K君はココアを一口飲み、深く息を吸いました。
「もう少しだけ、やってみるよ」
母はうれしそうにうなずき、部屋を出ていきました。
そして迎えた本番の日。
K君は緊張しながらも、あの夜の言葉を思い出していました。
「暗いのは、光が近いからだ」
その一言が、最後まで自分を支えてくれたのです。
数週間後、合格通知が届いたとき、K君は思わず涙がこぼれました。
努力が報われたことも嬉しかったけれど、
何よりも“信じてくれた人がいた”ことが胸に響いたのでした。